「お嬢さんの夢は、“女優”だってね」

男の声が云いました。
男、と云っても彼は人間ではありません。肌は青色をしているし、頭部には触角
、腕には鎌、背中には羽までついています。ちょうどカマキリと人間とを混ぜ合
わせたような奇妙な格好で、その異様な様相から“カマキリ怪人”と云った可笑
しな呼び名が最もしっくりくるように思われました。

一方話し掛けられた方は人間の少女でした。白い肌と蜂蜜色の髪の持つふわふわ
とした雰囲気は甘い砂糖菓子のような印象を与えます。
少女はカマキリ怪人の言葉にこっくりと可愛らしく頷きました。

「それは叶いそうな夢なのかい?」

「判りません」
少女ははっきりと、しかし幾分不安げな声で答えました。
かぶりを振ると蜂蜜色がさらさら音を立てて揺れます。

「今の私からはちっとも見当がつかないのです」


カマキリ怪人はケラケラと笑って一層低い声で云いました。

「お嬢さん、叶わない夢なんか持たない方が良い」


それは少女の不安を煽るような言葉でしたけれど、彼女のピントは少しばかりず
れていて彼の意図とはまた別のところを捉えているのでした。
愛らしい首を傾げて少女が問いました。


「貴方の夢は叶わなかったのですか?」


少女の言葉にカマキリ怪人は一瞬ぎくりと目を見開くと、笑っているのとも泣い
ているのともつかないひどく歪んだ表情になりました。

「何故そう思う?」

「‥今の言葉が、まるで経験者のようでしたから‥」

カマキリ怪人はまたケラケラ笑って、まぁそういうことにしておいても良い、な
んていい加減なことを云いました。

けれども少女には、そうしているカマキリ怪人の様子がとても哀しげに見えて、
彼の体をぎゅぅっと抱き締めてやりたいような気になったのですけれど、そうい
った行為を彼がひどく嫌がりそうだったので代わりに自分の服の裾をきゅっと握
り締めました。






当時の私曰く絵本ぽい雰囲気出したかったらしいですよ! 欠片も見えませんが! うちのギリうらは “うららたんをめちゃめちゃにしてやりたいんだけどその瞳の光を汚すことはどう しても出来なくてうわーーってなりながら最終的には癒されてしまうギリンマ君” と “何だかよく判らないんだけどギリンマ君の痛々しいところとかに共鳴して惹か れちゃううららたん” で構成されています。 2007/07/24(2008/03/25改)