―今日は朝から嫌な予感がしてたんだ― *** ぼんやりとした意識の中で、ギリンマは働かない思考を働かせた。 彼の姿はいつもと随分違っていて、それと説明されなければ気付くのは難しいだ ろう。 ―ひどいみてくれだ‥ 醜悪と云った方が良いかもしれない。 体は何倍にも膨れ上がってしまっているし、顔なんか化け物そのものだ。知性の 欠片もあったものではない。 いつもと違うことはまだあった。 嘘みたいな話だけれど、腹には大きな穴がぽっかりと口を空けているのだ。 ―夢じゃないのか、これ‥ 自分の姿があまりにも滑稽で、ギリンマは思わず笑い出したくなった。けれども 今の彼には表情すら思うように動かせない。 ギリンマの体を光が覆い、彼の姿はシルエットだけになった。 *** ―今日は朝から嫌な予感がしてたんだ― *** その日は朝から調子が合わなかった。 いつもなら6時きっかりに目を覚ますところなのに、今日に限っては30分を回っ た6時37分。 目玉焼きは黄身をフライパンの上で割ってしまうし(半熟が好きなのに‥)、ワ イシャツには醤油を零してしまうしでまるでろくなことがなかった。 お陰で出社時刻ぎりぎりに滑り込む羽目になってしまった。 ―そしてアレだ。 あの黒い紙。 ナイトメアの社員だったら誰でも知ってる。(くそ!) それから後のことはもうよく覚えていないけれど、ふらふらしているうちに彼女 らに会った気がした。 ―まったくひどい話だ。 こんなことになるんだったら朝食くらいゆっくり摂っておきたかったし、会社に も余裕を持って出社したかった、と今になって思う。 結末は何ら変わらないだろうけれど。 ―それから‥それから‥― シルエットが炙られた飴細工のようにゆるゆると崩れていき、終には形をなさな くなった。黒い仮面がぱっかり外れて彼の元の姿が形成される。 ―ああ結局敗けてしまったのか‥ 一体自分に何が起きているのか、それすら判別が出来なくなっていたが、それだけ はっきりと自覚できた。 しかしそれも一瞬で、その姿もまたすぐに崩れて行く。 彼の思考もそこで途切れて身体もろとも空間に溶けていった。
ギリンマ君追悼に出したネタ。 いまだにあの話見返せてないから砲撃受けたのが腹だったのか現在進行形で判って ない。 2007/08/03(2008/03/25改)